• Greta Thunberg [created by], 2022: The Climate Book. London: Allen Lane (Penguin Random House Group).
• グレタ トゥーンベリ 編著, 東郷 えりか 訳, 2022: 気候変動と環境危機 — いま私たちにできること。河出書房新社, 446 pp. ISBN 978-4-309-25451-7.

日本語版は 2022年11月の新刊、B5判 横書きのハードカバー。片手で持つことはできるが、持って読むには重い。写真だけのページも1割ぐらいあるが、文章のページは1ページあたり1200字ぐらいあるから、簡単に読みとおせるものではない。ひとまず、目次を書きぬいてわかったことをのべておく。

おおぜいの専門家に分担執筆してもらっているが、そのよせあつめだけの本ではない。およそ5章ごとに、編者のトゥーンベリさんによる総論的な章がはいる。それで、まとまりのある本になっていると思う。わたしはそれの内容さえまだおさえていないが、目次に出てくるキーワードから、編者の論点はおよそつぎのようなものだと思う。

• 気候の変化に関する科学的知識には、定量的な不確かさはあるが、温暖化が進行すれば人間社会に悪影響があり、人間社会を二酸化炭素排出をしないものに変えていくことをはじめとする対策が必要だ、という主張がゆるがないという意味では、確かだ。
• 気候の変化による被害は人びとのあいだに不公平に生じる。大きな被害をこうむる人はたいてい排出の責任は小さい。「気候正義」の問題がある。
• 対策のためには、問題を自覚した人びとが、政治をかえていく必要がある。

情報の根拠のうち、図の出典は巻末にあるが、これはどちらかといえば著作権に関することわりがきだ。本文にのべられた記述や統計資料の根拠は、ふつうの単行本ならば各章の注として印刷されるところだが、本書のばあいはウェブサイト theclimatebook.org の Endnotes という部分に章別に収録されている。本には注の記号はないので、Endnotes のページの側で本文の語句を引用して注をつけている。その注をたどれば参考文献にたどりつけることが多い。

執筆者として、気候正義に関してはいろいろな民族の運動家に書いてもらっているところもあるが、科学の話題は西ヨーロッパと北アメリカの人が多い。世界の科学界を公平に代表させることは意図せず、編者の知り合いの人脈でたのめる人にたのんだのだろう。日本の人は 沖 大幹 さんひとりだ。「Planetary boundaries」で知られる Rockström さんは、現在の職場はドイツだがスウェーデン出身であり、本書でも第1部 第8章を書いている。そのもとの専門は水文・水資源で、Malin Falkenmark さんのもとで働いていたことがある。沖さんも水資源問題では Falkenmark さんの影響を受けた議論をしているので、おそらく Rockström さんをつうじて編者から近いのだと思う。

日本語版がつくられた事情についての記述は見あたらない。これだけの本を短期間に翻訳した東郷さんもすごいと思う。東郷さんはほぼ同じ時期 (2022年12月) に勁草書房から出た『アマルティア セン 回顧録』の翻訳もしている。

折りかえしのあとに 目次をつける。各章の著者名を「/」のあとにつけたが、「グレタ トゥーンベリ」を「GT」と略した。著者名のローマ字つづりは本書の本文ページからひろった。そのうち「スニータ ナーラーヤン」さんのところは本文ページには別の人の名まえがはいっていたので、ウェブ検索でみつけた、おそらくその人のことと思われる記事にあったつづりを入れた。

== 目次 ==
目次
= 第1部 気候のしくみ — 科学に耳を傾けよう。手遅れにならないうちに=
1章 この問題を解決するには、まず理解が大事 /GT
2章 CO₂ の太古からの歴史 /ピーター ブラネン Peter Brannen
3章 私たちが進化に与える影響 /ベス シャピロ Beth Shapiro
4章 文明と絶滅 /エリザベス コルバート Elizabeth Kolbert
5章 科学はこれまでになく揺るぎない /GT
6章 気候変動の発見 /マイケル オッペンハイマー Michael Oppenheimer
7章 なぜ行動しなかったのか? /ナオミ オレスケス Naomi Oreskes
8章 転換点とフィードバックループ /ヨハン ロックストローム Johan Rockström
– 「グレート・アクセラレーション」
9章 これは世界最大の物語 /GT
= 第2部 地球はどう変わっているのか — 科学は嘘をつかない =
1章 気象はステロイド剤を投与されたように見える /GT
2章 熱 /キャサリン ヘイホー Katharine Hayhoe
3章 メタンとその他のガス /ジーク ハウスファーザー Zeke Hausfather
4章 大気汚染とエアロゾル /ビョルン H. サムセット Bjørn H. Samset
5章 雲 /パウロ チェッピ Paulo Ceppi
6章 北極の温暖化とジェット気流 /ジェニファー フランシス Jennifer Francis
7章 危険な気象 /フリーデリケ オットー Friederike Otto
8章 雪玉は転がりだした /GT
9章 干ばつと洪水 /ケイト マーヴェル Kate Marvel
10章 氷床、棚氷、氷河 /リカーダ ヴィンケルマン Ricarda Winkelmann
11章 温まる海洋と上昇する海 /シュテファン ラームストーフ Stefan Rahmstorf
12章 酸性化と海の生態系 /ハンス=オットー ペルトナー Hans-Otto Pörtner
13章 マイクロプラスチック /カリン クヴェイル Karin Kvale
14章 淡水 /ピーター H. グリック Peter H. Gleick
15章 思っている以上にずっと身近なこと /GT
16章 林野火災 /ジョエル ガーギス Joëlle Gergis
17章 アマゾン流域 /カルロス ノブレ Carlos A.Nobre、ジュリア アリエイラ Julia Arieira、ナタリア ナシメント Nathália Nascimento
18章 北方林と温帯林 /ビヴァリー E. ロウ Beverly E. Law
19章 陸生生物の多様性 /アドリアナ デ パルマ Adriana De Palma、アンディ パーヴィス Andy Purvis
20章 昆虫 /デイヴ グールソン Dave Goulson
21章 自然の暦 /キース W. ラーソン Keith W. Larson
22章 土壌 /ジェニファー L. スーン Jennifer L. Soong
23章 永久凍土 /オルヤン グスタフソン Örjan Gustafsson
24章 気温が 1.5℃、2℃、4℃ 上がると何が起こるか /タムジン エドワーズ Tamsin Edwards
= 第3部 私たちにどう影響するのか — 点と点がつながらない =
1章 世界は発熱している /GT
2章 健康と気候 /テドロス アダノム ゲブレイェソス Tedros Adhanom Ghebreyesus
3章 暑さと病気 /アナ M. ヴィセド=カブレラ Ana M. Vicedo-Cabrera
4章 大気汚染 /ドゥルー シンデル Drew Shindell
5章 動物由来の感染症 /フェリペ J. コロン=ゴンザレス Felipe J. Colón-González
6章 抗生物質の耐性 /ジョン ブラウンスタイン John Brownstein、デレク マクファデン Derek MacFadden、サラ マッゴフ Sarah McGough、モーリシオ サンティラーナ Mauricio Santillana
7章 栄養と食べ物 /サミュエル S. マイヤーズ Samuel S. Myers
8章 誰もが同じ船に乗っているわけではない /GT
9章 1.1℃上昇の暮らし /サリムル ホク Saleemul Huq
10章 環境レイシズムと気候の不正義 /ジャクリーン パターソン Jacqueline Patterson
11章 気候難民 /エイブラム ラストガーテン Abrahm Lustgarten
12章 海面上昇と小さな島々 /マイケル テイラー Michael Taylor
13章 サヘルに降る雨 /ヒンドゥー ウマル イブラヒム Hindou Oumarou Ibrahim
14章 サップミの冬 /エリン アンナ ラッバ Elin Anna Labba
15章 森のための闘い /ソニア グラジャジャーラ Sonia Guajajara
16章 途方もない難題が待ち受けている /GT
17章 温暖化と不平等 /ソロモン シアン Solomon Hsiang
18章 水不足 /沖 大幹 Taikan Oki
19章 気候と暴力 /マーシャル バーク Marshall Burke
20章 気候変動の本当のコスト /ユージーン リンデン Eugene Linden
= 第4部 どう対処してきたのか — 人間は地球と同じ言葉を話してはいない =
1章 自分たちの失敗を認められなければ、どうやって失敗をやり直せるのか? /GT
2章 新しい否定主義 /ケヴィン アンダーソン Kevin Anderson
3章 各国政府の気候目標 /アレクサンドラ ウリスマン オットー Alexandra Urisman Otto
4章 私たちは正しい方向に進んでいない /GT
5章 根強い化石燃料 /ビル マッキベン Bill McKibben
6章 再生可能エネルギーの躍進 /グレン ピーターズ Glen Peters
– 脱化石燃料のエネルギー源
7章 森林はどのように役立つのか? /カール=ハインツ エルプ Karl-Heinz Erb、ジモーネ ギングリヒ Simone GIngrich
8章 地球工学はどのくらい進んでいるのか? /ニクラス ヘルシュトルーム Niclas Hällström、ジェニー C. スティーヴンス Jennie C. Stephens、イサック ストダード Isak Stoddard
9章 削減技術 /ロブ ジャクソン Rob Jackson
10章 まるで新しい考え方 /GT
11章 地球に残された人類の痕跡 /アレクサンダー ポップ Alexander Popp
12章 カロリー問題 /マイケル クラーク Michael Clark
13章 新しいフードシステムの設計 /ソーニャ バームーレン Sonja Vermeulen
14章 産業界の排出量を解析する /ジョン バレット John Barrett、アリス ガーヴィー Alice Garvey
15章 技術的なつまずき /ケタン ジョシ Ketan Joshi
16章 運輸が突きつける課題 /アリス ラーキン Alice Larkin
17章 将来は電気が主流か? /ジリアン アナブル Jillian Anable、クリスチャン ブランド Christian Brand
18章 彼らは同じことを繰り返し言いながら、別のことをやっている /GT
19章 大量消費主義のツケ /アニー ラウリー Annie Lowrey
20章 いかに買うか (買わないか) /マイク バーナーズ=リー Mike Berners-Lee
21章 世界各地の廃棄物 /シルパ カザ Silpa Kaza
22章 リサイクルの神話 /ニーナ シュランク Nina Schrank
23章 私たちはここに線を引く /GT
24章 排出と成長 /ニコラス スターン Nicholas Stern
25章 衡平さ /スニータ ナーラーヤン Sunita Narain
26章 脱成長 /ジェイソン ヒッケル Jason Hickel
27章 認識のずれ /オミタプ ゴシュ Amitav Ghosh
= 第5部 いま私たちがしなければならないこと — 違う道も選べる =
1章 この混乱から抜けだす最も効果的な方法は自分で勉強すること /GT
2章 個人の行動、社会の変革 /スチュアート キャプスティック Stuart Capstick、ロレイン ウィットマーシュ Lorraine Whitmarsh
3章 1.5℃上昇のライフスタイルに向けて /ケイト ラワース Kate Raworth
4章 気候への無関心を克服する /ペール エスペン ストクネス Per Espen Stoknes
5章 食生活を変える /ギドン エシェル Gidon Eshel
6章 海洋を記憶する /アヤナ エリザベス ジョンソン Ayana Elizabeth Johnson
7章 再野生化 /ジョージ モンビオ George Monbiot、レベッカ リグリー Rebecca Wrigley
8章 いまでは不可能に思われることをやらなければならない /GT
9章 プラクティカル ユートピア /マーガレット アトウッド Margaret Atwood
10章 大衆の力 /エリカ チェノウェス Erica Chenoweth
11章 メディアが語る切り口を変える /ジョージ モンビオ George Monbiot
12章 新しい否定主義に抵抗する /マイケル マン Michael E. Mann
13章 緊急事態に対する偽りのない対応 /セス クライン Seth Klein
14章 パンデミックからの教訓 /デイヴィッド ウォレス=ウェルズ David Wallace-Wells
15章 正直、連帯、十全性、そして気候正義 /GT
16章 公正な移行 /ナオミ クライン Naomi Klein
17章 衡平さはあなたにどんな意味があるのか? /ニッキー ベッカー Nicki Becker、ディシャ A. ラヴィ Disha A. Ravi、ヒルダ フラヴィア ナカブイエ Hilda Flavia Nakabuye、ローラ ヴェロニカ ムニョス Laura Verónica Muñoz、イナ マリア シコンゴ Ina Maria Shikongo、イシャ シディカ Ayisha Siddiqa、ミッチ ジョネル タン Mitzi Jonelle Tan
18章 女性と気候危機 /ワンジラ マータイ Wanjira Mathai
19章 脱炭素化には再分配が必要 /ルーカス チャンセル Lucas Chancel、トマ ピケティ Thomas Piketty
20章 気候の修復 /オルフェミ O. タイウォ Olúfémi O. Táíwò
21章 地球との関係を修復する /ロビン ウォール キマラー Robin Wall Kimmerer
22章 希望は勝ち取らなければならないもの /GT
– では、どうすべきか?
– やらなければならないこと
– 社会のなかで私たちがともにできること
– 個人として何ができるか
– 人並み以上に行動できる人もいる
索引
図版出典
カバーについて /エド ホーキンズ Ed Hawkins