• 河村 武 編, 1986: 気候変動の周期性と地域性。古今書院, 304 pp. ISBN 4-7722-1096-2.

A5判 横書きのハードカバー。

「昭和58-60年度 文部省科学研究費 総合研究(A)「気候変動の周期性と地域性」 (課題番号 58380027)」の成果として編集された論文集である。当時の科研費の「総合研究 (A)」が、大まかに同じ主題のなかで実質的に別々に研究している人たちが分担執筆して本をまとめる、という形になるのはふつうのことだったと思う。

【わたしは、出版当時に所属していた研究室に科研費報告書としてとどけられたものを拾い読みしていたが、そのあと遠ざかっていた。2022年、授業の教科書 (立正大学, 2011) の参考文献として、小林 守 氏による章を確認する必要を感じたので、現在所属する大学の図書館の保存書庫にあったものを借り出し、その章を読んだほか、全体の目次を書きぬいた。】

各章の主題は、それぞれ気候変動の周期性と地域性にかかわるところはあると思うが、各著者がそれぞれの主題を追いかけているのであって、全体として「気候変動の周期性と地域性とはどんなものか」という問いに答えてくれることを期待すると、あてがはずれる本である。

しかし、執筆者には、日本の地理学のうちで気候学を専攻していた大学教員の多くがかかわっている。(やや筑波大学・旧東京教育大学の関係者にかたよっているが、そうでない人もいる。) それぞれの主題についての総合報告になっている章と、個別の課題の研究論文に近い章とがあるが、いずれにしても、それぞれかなり力を入れて書かれており、学術論文雑誌よりも読む価値のある文章の密度が高いといえると思う。「共同で本を出すための科研費」などがなくなったいま、このような本が出てくることはあるのだろうか?

文献

• 立正大学 地球環境科学部 環境システム学科 編, 2011: 『環境のサイエンスを学ぼう』。[読書メモ]

===== 目次 =====
はしがき /河村 武
目次
序章 /河村 武
– – 1. はじめに
– – 2. 気候変化の複雑さ
– – 3. 気候変動のスケール
– – 4. 古気候の復元
第1章 気候値の特性と気候変動の研究の問題点
– 1.1 気温の平年値算定のための統計年数について /小林 守
– – 1. はじめに
– – 2. 算定方法と資料
– – 3. 最適平年日数の季節性
– – 4. 最適平年日数の地域性
– 1.2 気候変動の時空間スケールに関する一考察 /安成 哲三
– – 1. はじめに
– – 2. 気候アノマリーの時間スケール
– – 3. 気候アノマリーにおける規則性と不規則性
– – – 3.1 時間スケール
– – – 3.2 空間スケール
– – 4. 気候変動の非線形性と資料解析における問題
– – – 4.1 自然変動度
– – – 4.2 時間フィルター
– – – 4.3 空間パターン
– – – 4.4 季節サイクル — もう一つのアプローチ
– – 5. おわりに
– 1.3 年輪分析による気候変動の周期性と地域性 /福岡 義隆
– – 1. 年輪の証明 — 年輪気候学研究小史
– – 2. 年輪のサンプリングと解読方法
– – 3. 年輪にみる気候災害の経年変化
– – 4. 年輪成長の周期変動の地域によるくせ
– – 5. 年輪気候学の意義と展望
– 1.4 気候変動の研究における都市気候の意義 /山下 脩二
– – 1. 都市気候とは
– – 2. 都市気候の考え方
– – 3. 都市気候の評価
– – 4. 気候変動と都市気候
– – – 4.1 気候データに与える都市の影響
– – – 4.2 気候変動に与える都市の影響
第2章 世界の気候変動
– 2.1 気温による気候変動・変化の把握とその問題点 /田宮 兵衛
– – 1. はじめに
– – 2. 全球平均気温
– – 3. 全球平均地上気温の意味
– – 4. 地上気温の広域的平均値
– – 5. 対流圏下層の平均気温
– – 6. おわりに
– 2.2 東アジアの夏の降水量の地域性 /吉野 正敏
– – 1. はじめに
– – 2. 夏の降水量とその変動
– – – 2.1 6月・7月の降水量分布
– – – 2.2 6月・7月の降水量標準偏差の分布
– – 3. 降水量年々変化の地域性
– – – 3.1 年々変化型の地域性
– – – 3.2 降水量の年々変動の実体
– – 4. 降水量変動に及ぼす要因
– – – 4.1 東西指数
– – – 4.2 海面水温
– – – 4.3 北太平洋高気圧
– – 5. まとめ
– 2.3 東部赤道太平洋の海水面温度変動時に現れる大気大循環および極東地域の天気変動 /野元 世紀
– – 1. はじめに
– – 2. 海水面温度の変動
– – 3. 東部赤道太平洋の海水面温度変動時に現れる大気大循環の変動
– – 4. 東部赤道太平洋の海水面温度変動時に現れる極東地域の天候変動
– – 5. おわりに
– 2.4 ブラジル北東部における降水量の変動 /西沢 利栄
– – 1. ノルデステとその気候特性
– – 2. 降水量の年変化とその地域性
– – 3. 降水量の経年変化と寡雨年・多雨年
– – 4. 降水量の経年変化による地域区分
– – 5. 今後の問題
– 2.5 アフリカの降水量の変動 /黒坂 裕之
– – 1. はじめに
– – 2. アフリカの降水系の概要
– – 3. 降水量の変動
– – – 3.1 アフリカでの降水量変動の解析とその問題点
– – – 3.2 降水量の変動の周期性
– – – 3.3 降水量の長期変化傾向
– – 4. 降水量の変動の原因
– – 5. まとめ
第3章 日本の気候変動の諸問題
– 3.1 土佐清水における大気の混濁の変動 /中川 清隆
– – 1. はじめに
– – 2. 土佐清水における直達日射量の長期変化
– – 3. 土佐清水における非混濁大気の直達日射量の長期変化
– – 4. 土佐清水における大気透過率の長期変化
– – 5. 土佐清水における Linke の混濁係数の長期変化
– – 6. 土佐清水におけるダスト混濁係数の長期変化
– – 7. おわりに
– 3.2 気圧の時系列変化の中に現れる周期性と気候変動 /林 陽生
– – 1. はじめに
– – 2. 解析方法と40年平均気圧変化
– – 3. 5年平均変化に現れる特徴
– – 4. 毎年の気圧年変化と気候変動
– – 5. 30日移動平均の中に隠された短周期の気圧変動
– – 6. あとがき
– 3.3 南西諸島の気候変化 /漆原 和子
– – 1. はじめに
– – 2. 地質時代の乾湿の変化
– – 3. 歴史時代の気候変化
– – 4. 観測時代の気候変動
– – – 4.1 経年変化
– – – 4.2 乾燥年と湿潤年
– – 5. まとめ
– 3.4 都市化・工業化が降雨・降雪に及ぼす影響 /北出 寿江
– – 1. はじめに
– – 2. 外国の都市とその周辺の降水変化
– – 3. わが国の都市化・工業化と降水変化
– – 4. 降水の変化の地域差
– – 5. 都市および工業活動の降雪への影響
– – 6. おわりに
第4章 近世における日本の気候変動の復元
– 4.1 江戸時代の気候の復元 /吉村 稔
– – 1. はじめに
– – 2. 従来の調査例
– – 3. 日本中部における江戸時代の天候
– – – 3.1 地点ごとの天候傾向
– – – 3.2 天候傾向と災害など
– 4.2 18世紀末における日本の気候復元 — 考察的検討 /三上 岳彦
– – 1. はじめに
– – 2. 天候分布図の復元
– – – 2.1 藩日記の天候記録
– – – 2.2 1780年代の天候分布
– – 3. 1780年代の乾湿分布図
– – – 3.1 乾湿分布図の復元
– – – 3.2 日本と中国の乾湿分布
– – – 3.3 降水量分布の統計的分析
– – – 3.4 最近の特異年との比較
– – 4. おわりに
– 4.3 近畿地方における19世紀以降の気候変動 /水越 允治
– – 1. はじめに
– – 2. 従来の研究
– – 3. 研究の方法
– – 4. 1830年代の月別平均気温の復元 — 考察的検討
– – 5. 近畿地方中部における過去150年間の夏の気温の変動
– – 6. 問題点と今後の研究方向
– – 7. あとがき
– 4.4 古日記による幕末期の気候復元 /深石 一夫
– – 1. はじめに
– – 2. 史料と整理方法
– – – 2.1 史料
– – – 2.2 史料の整理方法
– – 3. 結果と考察
– – – 3.1 降水日数
– – – 3.2 寒冷・暑暖日数
– – – 3.3 大波・大風日数
– – – 3.4 天気分布
– – 4. 要約
索引
===== ここまで =====