地表面エネルギー収支各項とそれに関連する気象変数

地表面のエネルギー収支の考えかたについては、 教材ページ[地表面のエネルギー収支]と 用語補足記事(ブログ上) [地表面のエネルギー収支と水収支]を参照。

地表面(厚さ無限小の層)のエネルギー収支の式

0 = Rnet - H - LE - G

各項の説明

• 青・斜体は(地表に近い)大気の量
• 赤・【】は陸面・水面の量のうち陸面ではエネルギー収支の結果決まると考えられるもの
• 緑・太字は陸面・水面の量のうちあらかじめ与えられたと考えられるもの
• [Rnet: 正味放射] [用語補足記事]。下向きを正とする。内わけは別に述べる。
• [H: 顕熱フラックス] [用語補足記事]。上向きを正とする。
  • 【地表面温度】と地上気温との差 【T_s】-T_A に比例する。(慣例では地上気温として地上高さ(海抜ではない) 2 mでの気温を使う。) 比例係数は次のものによる。
    • 地表に近い大気の成層が不安定ならば大きく安定ならば小さい。 【T_s】-T_Aが 正ならば大きく負ならば小さい。
    • 地表面の粗度が大きいほど大きい。 (粗度というのは学術用語として定義があるがここでは省略。)
    • 地上風速(2次元ベクトルの絶対値)が大きいほど大きい。 慣例では地上風速として地上高さ10 mの10分平均の風速を使う。 (ただし、上空の風速が同じならば、地表面の粗度が大きいほど地上風速は小さい。)
• [L E: 潜熱フラックス] [用語補足記事]。上向きを正とする。ほぼ常に正。
  • Lは水の単位質量あたりの蒸発の潜熱(相変化のエンタルピー)、定数 2.5×10⁶ J/kg とみてよい。
  • Eは蒸発の質量フラックス密度。ふつう「蒸発量」というのはこのEを液体水体積フラックス密度になおしたもの。
  • 水面の場合は、【地表面温度】での飽和比湿と 地上比湿との差 q_sat(【T_s】)-q_A に比例する。 (慣例では地上比湿として地上高さ(海抜ではない) 2 mでの比湿を使う。) 比例係数は顕熱フラックスの場合と同様に、地表に近い大気の成層、 地表面の粗度、 地上風速に依存する。
  • 陸面の場合はいろいろな定式化が考えられるが、 その一つは、水面と同様の式で計算されたL Eに 陸面湿潤度がかかった形である。 陸面湿潤度という用語は学術用語として規定されたものではなく、定義も定まらないが、 その値は0 (完全にかわいた地面で)と1(完全に湿った地面で)の間の値をとると考えられる。
• [G: 地表面の下側のエネルギーフラックス]。下向きを正とする。
  • 陸面の場合は熱伝導で、 【地表面温度】と適当な深さの地温の差 【T_s】-T_G に比例する。(地温の慣例は定まっていない。)
  • (水面の場合はGはエネルギー収支の結果決まると考えられる。)

正味放射の内わけ

Rnet = R_S^↓ - R_S^↑ + R_L^↓ - R_L^↑

• 添え字のSは「短波放射」(太陽放射)、Lは「長波放射」(地球放射)の波長帯。 [用語補足記事]
• 添え字の↓は下向き(大気から陸・海へ)、↑は上向き(陸・海から大気へ)。
• R_S^↓は大気の側で決まる量。 その場の大気上端に入射する太陽放射に0と1の間の係数がかかると考えてよい。 係数は大気による散乱(のうち結果として反射になるもの)と吸収が大きいほど小さくなる。 とくに雲の影響を受ける。
• R_S^↑ = α_s R_S^↓。α_sは地表面のアルベド(太陽放射反射率)。その場の地表面状態(とくに雪氷の有無)によって違った値をとる。 (「惑星アルベド」α_pとは区別すること。) [アルベドについての用語補足記事]
• R_L^↓は大気の側で決まる量。 雲があれば雲底温度の黒体放射に近いものになる。 (もし大気が一つの薄い層に集中していれば、 「大気層の射出率」ε_Aという量を導入して ε_A σ_B T_A⁴のように書けるだろうが、実際はそうではない。 大気の射出率は波長によって大きく違う。その結果、地表に達する射出がおもにどの高さから出たものかも波長によって違う。 水蒸気や二酸化炭素による吸収の多い波長域では地表に達する放射は地上すぐ上の空気から出たもの。吸収の少ない波長帯ではもっと高いところの空気から出たもの。)
• R_L^↑ = ε_s σ_B 【T_s】⁴。
  • ε_sは地表面の射出率。0と1の間の値をとり、ふつう1に近い。
  • σ_BはStefan-Boltzmann定数 (物理定数)。
  • 【T_s】は【地表面温度】。